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2024.07.08
PTA
令和6年度 PTA・進路指導課共催講演会

令和6年度 PTA・進路指導課共催講演会
日時:令和6年6月17日(月) 15:00~16:10
場所:済美平成中等教育学校(体育館)

 冒頭、済美平成中等教育学校1期生(現同窓会会長)で、現在、名古屋大学附属病院小児科に勤務されている上田先生(同病院総合周産期母子医療センター助教)より、講師である佐々木先生をご紹介頂きました。上田先生と佐々木先生は、同じ病院にお勤めという関係性に加え、愛知県にこどもホスピス設立を目指すNPO法人の役員として活動されるなど、我が国における小児科医療で多岐にわたりご活躍されています。

[講師 佐々木 美和氏のご紹介]
 名古屋市立大卒。米ミルズ大大学院でチャイルド・ライフを専攻。2007 年から名古屋大学附属病院に勤務し、チャイルド・ライフ・スペシャリストとして、主に小児科内病棟にて小児がんの子供と家族に関わっている。昨年5 月にNHKプロフェッショナルに取り上げられた。愛知県でこどもホスピス設立を目指すなど、現在もその活動は注目を集めている。

※チャイルド・ライフ・スペシャリスト(以下、CLS):病気や障害のある子どもと家族の心のケアを目的に、1950年代から北米で発展した専門資格。昨今の小児医療現場は、「子ども・家族中心医療」を目指して色々な専門家が患者を支えるトータル・ケア化が進んでおり、CLSもその重要なパーツの一つになっている。なお、日本で活躍するCLSは50人程で、今後の拡大が期待されている。

[講演内容「子どもに優しい医療を目指して」]
 これまでのご経験を交え、いくつかのキーワードに沿ってお話されました。

~表現すること~
 留学中の保育園実習で、おもちゃの取り合いで怒った女の子が砂を投げつけた時、当時の指導教官が「怒って良いのよ。私があなたの立場でも怒るわ。。でも、砂を投げるのは良くないね。」と伝え、「I am angry! I am angry!」と言いながら砂の山をおもちゃのトンカチで壊す遊びを始めた。この経験で、「気持ちを受け止めてもらうことで生まれる安心感」、「感情を表現する大切さ」、「表現の方法を寄り添って一緒に考える重要性」を学んだ。
 骨髄移植を予定している17歳の男の子が、病院内の中高生を集めた会で「もし自分が死んでしまったら、全校集会で黙とうされるのかな。」と大人には言えない愚痴を呟くのを見たとき、「人には言葉にできない気持ちがあること」、「そんな気持ちが表現できる場が必要なこと」を学んだ。

~選ぶこと、決めること~
 病院は、注射を受ける、検査を受けるなど、受身の経験が多い環境だが、遊びを通じて、子どもが何をしたいか自分で決める機会を与えることが重要。済美平成の皆さんにも、自分の気持ちを尊重してくれる大人が周りにいるということを伝えたい。

~子ども中心・子どもが主体~
 小学高学年の男の子を遊びに誘った際、「気をつかうじゃん。笑わないといけないでしょ。」と断られたことがある。「私」の気持ちと目の前の「その子」の気持ちは違うことを前提に、いずれの気持ちも大切にしながら、人と関わることの重要性を学んだ。

~病気や治療を知ること~
 昨今の医療では、たとえ子どもであっても、何が起こっているのかをしっかり伝え、心の準備を手伝う事に重点を置く。(病気という)困難な出来事を取り除くことは出来ない中で、対処法を一緒に考えるということに注力している。

~兄弟の存在~
 病気や障害のある子どもの兄弟が辛い思いをしていることも多い。同じ環境の子どもを集め、「頑張っているよ。みんな一人じゃないよ。」というメッセージを伝えている。

~環境の工夫~
 アメリカでは、楽しげな雰囲気を演出する装飾や設備を配置して、病院を明るくしている。これにならって、名古屋大学附属病院でも壁や検査設備に動物をペインティングするなど、子どもの苦痛を減らし、その力を引き出す工夫を施している。

~人はいつか死ぬ~
 14歳で腎臓ガンを発症し、高校入学後に再発したY君についてのエピソード。完治が難しい旨を本人に伝えるか否か両親は悩んだが、Y君は「治るか、治らないのか分からないのが一番不安。治らないのなら、残された時間でやっておくべき事がある」と伝え、最終的にはY君に告知。Y君は、難病に罹っても懸命に生きるべきという世の中の価値観と、辛い治療を続ける苦しさのはざまで悩む。葛藤の末、「治すことは諦めるけど、生きることは諦めない」と語り、自宅で家族と過ごすことを選択。自身が亡くなる間際では、両親が安心できるよう病院に戻り、見送る人が安心出来るよう手紙やビデオメッセージを残した。

~私の進路の選択について~
 大学時代、小児科のプレイルームで過ごすボランティアを通じてCLSという職業を知り、アメリカ留学中も子どもに関わるボランティア活動を続けた。欧米では、ボランティアは「楽しみ」、「生活の一部」として捉えられており、自身の成長、成熟のための活動と見なされている。
 済美平成の皆さんにも、いろんなアンテナを伸ばして、様々な事にチャレンジして欲しい。新しい世界、素敵な出会いがきっと待っている。
 学生時代、色々と迷い、真っ黒な気持ちになることもあると思うが、ありのままでいい。皆さんは、そのままで、大切な存在だと分かって欲しい。

 医療現場でのご経験を通じた貴重なメッセージを伺い、思春期の子どもをもつ親として大切にすべきことがいくつか見えてきたように感じます。
 子どもの気持ちを受け止め、もしくは、子どもが気持ちを表現できる場を探すこと。
 何をしたいか子ども自身が決める機会を与えること。
 親と子どもの考えは異なると、親が自覚すること。
 子どもの目の前にある困難を知り、共に対処法を考えること。
 明るく楽しく暮らせるような環境を整えること。
 そして、一所懸命に生きること。

 最後に、講演で印象に残った一節をご紹介します。
 変えることができるものについては、それを変えるだけの勇気を。
 変えることができないものについては、それを受け入れるだけの心の平静を。
 変えることができるものと、変えることができないものを、見極めるための賢さを。

 佐々木先生、ご来校、ご講演いただき、どうもありがとうございました。

 

 

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